コンテンツへスキップ
宮本 文幸 公式サイト | 「見た目」戦略の科学

宮本 文幸 公式サイト | 「見た目」戦略の科学

ヒトとモノの「売れる見た目」を科学する 40年の研究と実務の集大成

  • Home
  • 「見た目」戦略の科学とは
  • 宮本文幸について
  • 書籍・論文
  • ブログ記事
  • 取材依頼

カルビー白黒パッケージ、3000人調査で購入意向が湖池屋を下回る――「正しい決断」がなぜ売れないのか

  • ホーム » ブログ記事 » カルビー白黒パッケージ、3000人調査で購入意向が湖池屋を下回る――「正しい決断」がなぜ売れないのか
2026年6月26日

カルビー白黒パッケージ、3000人調査で購入意向が湖池屋を下回る――「正しい決断」がなぜ売れないのか

宮本 文幸「見た目」戦略研究家/桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授


2026年6月24日、デザイン会社プラグが実施した10〜60代3000人を対象にした調査結果が報じられた。カルビーが5月に発表した「ポテトチップス」白黒パッケージについて、購入意向が同業の湖池屋を下回ったというのだ。

筆者は5月、「白黒のパッケージでは売れない」と書いた。色を失うことは、消費者の脳内で起きている自動的な連想回路を止めてしまう、という理屈だった。今回の調査結果は、その理屈を裏づける形になった。

しかし、ここで安易に「やはり予測は正しかった」と胸を張るのは、筆者としては誠実な態度ではないと思っている。なぜなら、前回までの2回の記事に対して、読者から至極まっとうな指摘を受けていたからだ。

「現場の事情をわかっていない外野が、勝手なことを言うな」

この指摘は正しい。今回はまず、その指摘に正面から向き合いたい。

なぜカルビーは「白黒」を選んだのか

中東情勢の緊迫化によるナフサ不足で、パッケージのカラー印刷に使うインクの原料が入手困難になっている。これがカルビーの白黒化、そして後続したカゴメやマ・マーといった食品各社のパッケージ簡略化の直接の引き金だった。

筆者は前回までの記事で、この決断の背景にある制約を3つ挙げた。

第一に、技術的制約だ。ポテトチップスのパッケージに使われるアルミ蒸着フィルムは、油脂を多く含むスナック菓子を光・湿気・酸素から守るために不可欠な素材だった。代替の透明フィルムでは、品質保持が技術的に難しい。

第二に、品質保証期間の問題だ。ポテトチップスの賞味期限は4〜6カ月と長く、流通期間も長い。その間、チップスの割れや油染みが透明パッケージ越しに見えてしまえば、それ自体が購買意欲を損なうリスクになる。

第三に、コストの問題だ。技術的には透明バリアフィルムという選択肢もあるが、通常のアルミ蒸着フィルムより高コストで、大量生産・低価格のスナック菓子には不向きだった。

つまりカルビーの白黒化は、思いつきや手抜きではない。技術・品質保証・コストという三重の壁を踏まえた、極めて合理的な経営判断だったということだ。この点は、いくら強調しても強調しすぎることはない。

見方を変えれば、これは「今まで通りの味・品質を、今まで通り消費者に届ける」ことを最優先した、きわめて真摯なメーカー姿勢でもある。パッケージの色を犠牲にしてでも、中身の味やクオリティ、安定した供給を守る。それは企業として、決して軽い決断ではなかったはずだ。

消費者の脳は、棚の前で何をしているのか

ところが今回の3000人調査では、その合理的な判断にもかかわらず、購入意向が競合の湖池屋を下回るという結果が出た。なぜ「正しい決断」が「売れない」という結果に結びついてしまうのか。

その答えを知るには、消費者がスーパーやコンビニの棚の前に立ったとき、脳の中で何が起きているのかを段階的に見ていく必要がある。

まず、色という視覚情報そのものは、私たちが「見よう」と意識する前に、脳の視覚系で自動的に検出されている。色や形の処理は、注意を向ける・向けないにかかわらず先行して進む、いわば前注意的な処理だ。つまり消費者がポテトチップスの棚を一瞥した瞬間、「黄色」「オレンジ」「白黒」といった色の違いは、意識的な検討よりも先に脳内で拾われている。

ここまでは、色という物理的な情報の処理にすぎない。問題はその次の段階だ。長年の食生活の中で蓄積された経験によって、特定の色と特定の味・印象が自動的に結びつくよう学習されている。食品科学の分野では、色を変えるだけで「感じる味」そのものが変わってしまう現象が確認されている¹。ある飲料を緑色に着色すると多くの人が「ライム味だ」と答え、同じ飲料をオレンジ色にすると「オレンジ味だ」と答える。中身の味は同じなのに、色が変わるだけで脳が感じる味を変えてしまうのだ。この「色と味の自動連想」は「クロスモーダル対応」と呼ばれ、意識的な推論を経ずに自動的に起動する。

別の研究では、暖色系の色は甘味や酸味といった特定の味覚と自動的に結びつくことも示されている²。カルビーのポテトチップスが長年まとってきたオレンジや黄色は、まさにこの自動連想の引き金として機能してきた色だった。

さらに、消費者が読み取っているのは色や味の連想だけではない。筆者自身の研究では、消費者は商品パッケージ全体に対しても、人の顔を見るときと近い情報処理を行っており、パッケージを一種の「人格」を持つものとして無意識に認識する傾向があることが確認されている³。色や形のまとまりから、そこに「個性」や「親しみやすさ」を感じ取ってしまうということだ。

加えて、スナック菓子という商品の性質そのものも見逃せない。前回の記事で触れたように、消費者行動研究では、関与度は低いがブランド間の知覚差異は大きい商品の購買行動を「バラエティ・シーキング型」と呼ぶ⁴。「前回はポテトチップスを買ったから、今日は別のお菓子にしよう」という、目新しさや違いを楽しむ買い方だ。スナック菓子の棚の前で消費者が求めているのは、安心や信頼だけではない。「今日は何にしようかな」というワクワク感そのものが、購買行動の一部になっている。

色の情報がゼロになれば、色の検出、味やブランドの自動連想、パッケージ全体への人格的な印象づけという一連の処理が入り口の段階で起動しなくなるだけでなく、この「選ぶ楽しさ」を支えていた視覚的な目新しさや違いも消えてしまう。バラエティ・シーキング型の購買心理にとって、白黒という選択は、感情的な満足という観点からも相性が悪かったのだ。

ここで、なぜ「白黒」ではなく「透明化」という選択肢が一部で支持されるのか、その心理的な必然性にも触れておきたい。前回の記事で紹介した、都内のコンビニエンスストアでの店頭調査では、生鮮食品(冷蔵)のパッケージは透明・半透明の比率が80%に達していたのに対し、スナック菓子(常温)の透明率はわずか3%、ポテトチップスは0%だった。この77ポイントの差は、消費者心理の構造的な違いを映している。

生鮮食品は「必需品」だ。消費者は「新鮮かどうか」「品質に問題はないか」を、自分の目で確かめることを最優先する。中身が直接見えることは、安心・信頼という必需品ならではのニーズに応える、いわば必然の結果だった。一方、スナック菓子は「嗜好品」であり、食べたいから、楽しみたいから買うものだ。そこで求められるのは、安心・信頼よりも「選ぶ楽しさ」や「おいしそう」という感覚的な喜びだ。

つまり透明化が消費者の安心につながるのは、あくまで「中身の品質を確認したい」という必需品的なニーズが強い場合に限られる。嗜好品であるスナック菓子の購入意向を取り戻すには、単に「色を消す」のでも「中身を透明に見せる」のでもなく、消費者が求めている感情的な満足――選ぶ楽しさ、おいしそうという期待感――をどう担保するかという、もう一段違う設計が必要になる。

つまり棚の前で起きているのは、企業が想定する「品質保証・コスト・供給の安定」という合理的な検討とは、まったく別の回路で進む、無意識の自動処理の連鎖なのだ。消費者自身も、自分がなぜ「白黒だと買う気がしない」と感じるのか、明確に説明できないことが多い。それは意識して考えた結果ではなく、考える前に脳が下した判断だからだ。

前回の提言は、現場の壁を超えられたか

前々回の記事で、筆者は「戦略的チラ見せ」という案を提示した。パッケージを白黒にするくらいなら、黒地の一部に透明の窓を設け、商品そのものを見せるという提案だった。

この提案について、読者から厳しい指摘を受けた。技術的制約・品質保証・コストという三重の壁を自分で説明しながら、結論では「それでもこうすべきだ」という提言に流れてしまっている、というものだ。

振り返ってみると、この指摘は的を射ている。透明窓を設けるという案も、結局は追加のコストと技術的な検証を必要とする。現場が抱えている制約の重さを、評論家としての立場から十分に汲み取れていなかった面があったと思う。

見た目の専門家として言えることと、実際にパッケージを製造・流通させる現場が抱える制約は、性質が異なる。筆者が資生堂で33年間、商品マーケティングの現場に身を置いてきた経験からも、それは痛感している。当時、ヒット商品の企画に関わる中で、技術部門・生産部門との折り合いをつけることがいかに難しいかを、繰り返し経験してきた。色や見た目の力を語ることと、それを現場でどう実現するかは、別の難易度を持つ問題なのだ。

誰のせいでもない、過渡期の問題

今回の調査結果を、「企業が間違えた」あるいは「消費者が単に保守的だ」という単純な対立構造で捉えるべきではない、というのが筆者の結論だ。

企業は、今まで通りの味と品質を消費者に届けるという真摯な姿勢のもとで、限られた選択肢の中から合理的な判断を下した。消費者は、意識的な検討の手前で動く自動処理に従って反応した。どちらも、それぞれの論理の中では正しい。問題は、この2つの論理が、現在のところ噛み合っていないという一点に尽きる。

ただし、これは固定された対立ではなく、過渡期の問題だと筆者は見ている。透明バリアフィルムのコストが下がれば、技術的制約とコストの壁は緩和される可能性がある。品質保証の観点からも、賞味期限の設計や包材の改良が進めば、透明化のリスクは下がっていくだろう。

ナフサ危機がもたらしたのは、単純な「白黒は売れない」という結論ではない。企業の合理性と消費者の自動的な脳内処理という、2つの異なる論理が今まさに摩擦を起こしているという、過渡期特有の現象なのだ。この摩擦がどう解消されていくのか、今後も見守っていきたい。


引用文献

¹ DuBose, C. N., A. V. Cardello & O. Maller (1980) Effects of colorants and flavorants on identification, perceived flavor intensity, and hedonic quality of fruit-flavored beverages and cake, Journal of Food Science, 45, 1393-1399.

² Spence, C. & C. A. Levitan (2021) Explaining crossmodal correspondences between colours and tastes, i-Perception, 12. / Spence, C., C. A. Levitan, M. U. Shankar & M. Zampini (2010) Does food color influence taste and flavor perception in humans?, Chemosensory Perception, 3, 68-84.

³ 宮本文幸 (2020) 「消費者による商品パッケージの『顔』認識―化粧品企業の『顔文化』を事例とした考察―」『異文化経営研究』17, 93-109. / 宮本文幸 (2023) 「イメージ・モチーフの特性解明に関する実証研究-化粧品パッケージでの実験と検証-」『商品研究』64(1・2), 19-39.

⁴ Assael, H. (1987) Consumer Behavior and Marketing Action, Kent Publishing.

東洋経済オンラインでは、この件について以前に2本の記事を書いている。

[売り場から色が消失…カルビー《白黒ポテチ》が受け入れられない、「気のせい」でも「ただの感情論」でもない”本当の理由”](2026年5月13日)

[「”無印”みたいにすればいい」は正解? ポテチに続き、ケチャップも…「パッケージ変更」で消える企業と生き残る”3つの道”](2026年5月21日)

関連するまとめ記事はこちらからもご覧いただけます。

[食品パッケージで売れる・売れないが分かれる、見た目の科学——カルビー・カゴメ・明治の事例から]

見た目の科学

コメントを残す コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

Search

Recent Posts

  • 「もうやめた(笑)」山本太郎の”笑顔”はなぜ嫌悪され、飯島直子の”すっぴん”はなぜ称賛されたのか——同じ「飾らない自分」を見せても明暗が分かれた理由
  • 顔で選ばれる時代に生き残る人の3つの共通点——高市首相・内村光良・りくりゅう・田中圭の事例から
  • 人も商品も『選ばれる』原理は同じだった——高市首相・高梨沙羅・田中圭とAg+・カルビーを貫く3つの法則
  • 「年子論争」が教えてくれた、見た目の科学のもう一つの顔——大谷翔平選手の慶事をめぐる脳の仕組み
  • カルビー白黒パッケージ、3000人調査で購入意向が湖池屋を下回る――「正しい決断」がなぜ売れないのか

Archives

  • 2026年7月
  • 2026年6月
  • 2026年5月
  • 2026年4月
  • 2026年3月
  • 2026年2月
  • 2026年1月
  • 2023年3月
  • 2022年9月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
宮本文幸ロゴ

宮本 文幸
ヒトとモノの「売れる見た目」を科学する
桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 教授

最近の投稿 Recent Posts

  • 「もうやめた(笑)」山本太郎の”笑顔”はなぜ嫌悪され、飯島直子の”すっぴん”はなぜ称賛されたのか——同じ「飾らない自分」を見せても明暗が分かれた理由
  • 顔で選ばれる時代に生き残る人の3つの共通点——高市首相・内村光良・りくりゅう・田中圭の事例から
  • 人も商品も『選ばれる』原理は同じだった——高市首相・高梨沙羅・田中圭とAg+・カルビーを貫く3つの法則
  • 「年子論争」が教えてくれた、見た目の科学のもう一つの顔——大谷翔平選手の慶事をめぐる脳の仕組み
  • カルビー白黒パッケージ、3000人調査で購入意向が湖池屋を下回る――「正しい決断」がなぜ売れないのか

Proudly powered by WordPress | Theme: BusiCare by SpiceThemes