7月、対照的な2つの「見た目」が世間の話題になりました。
一つは、政界引退を表明した、れいわ新選組・山本太郎代表の記者会見です。謝罪の場で見せた「笑顔」が、SNS上で「不気味」「不誠実」という猛烈な反発を招きました。
もう一つは、女優の飯島直子さんです。加工なしのすっぴんショットとともに、「握力が落ちた」「代謝が落ちたのに数値は上がる」といった老いのエピソードを飾らずに綴った投稿が、むしろ女性たちからの支持を集めています。
どちらも「ありのままの自分」をさらけ出した点は同じです。それなのに、片方は炎上し、片方は称賛される。この明暗を分けたものは何か。「見た目の科学」の視点から読み解いていきます。
山本太郎氏はなぜ「笑顔」で叩かれたのか
7月9日、山本太郎氏は記者会見を開き、代表辞任と政界引退を表明しました。会見の主題は、2025年10月の速度超過(法定速度80キロの区間を149キロで走行)についての説明でした。
会見自体は謝罪から始まったものの、質疑応答の中で山本氏が記者とのやり取りの中で笑顔を見せる場面が度々見られました。「政治家全般やめるの?」と問われて「もうやめた!」と笑いながら答えた場面が切り取られ、SNSで拡散。「笑い方が不気味だ」「釈明の場にふさわしくない」という反応が広がりました。
私たちは日常的に、感情をそのまま顔に出しているわけではありません。状況に応じて表情を調整するという作業を、ほとんど無意識のうちに行っています。心理学ではこれを「表示規則(display rules)」と呼びます。誕生日プレゼントが気に入らなくても、がっかりした顔ではなく笑顔を作ってしまう、あの心理と同じ仕組みです。
謝罪や引退表明という場には、「神妙な面持ちであるべきだ」という強力な表示規則が働きます。山本氏の笑顔は、この場の表示規則から逸脱していると受け取られ、「本当に反省しているのか」という疑念に直結してしまった——これが猛烈な反発を生んだ心理的メカニズムだと考えられます。
飯島直子さんの「すっぴん」はなぜ称賛されたのか
一方、飯島直子さん(58歳)は対照的な反応を得ています。7月上旬、Instagramに「握力低下。年齢を重ねると肩の力も抜け握るチカラも抜けます」「代謝は落ちるのに数値は上がる」という老いにまつわる投稿とともに、加工なしのすっぴんショットを公開しました。
かつて男性人気の象徴だった飯島さんですが、近年は同世代の女性たちから熱い支持を集めるようになっています。この現象は、白髪や加齢のリアルな姿を隠さず見せることで、「完璧な理想像」から「対等な同世代の仲間」へと立ち位置が変わったために起きていると考えられます。ありのままの姿を見せることで、かつての「憧れの的」という緊張感が解け、親近感に置き換わる——この効果を、心理学では「脅威解除効果」と呼びます。同じく白髪や加齢を隠さない選択をして支持を集めた例には、女優の天海祐希さんもいます。
明暗を分けた一線——「場」と「意味」のズレ
山本太郎氏と飯島直子さんは、どちらも「取り繕わない自分」を見せました。しかし、片方は嫌悪を招き、片方は称賛を集めました。この違いを生んでいるのは、見せた表情そのものではなく、「その場が求めていた意味」と「実際に見せたもの」がかみ合っていたかどうかです。
飯島さんのすっぴんは、「日常」という場において「等身大の自分」を見せる行為であり、場の期待と完全に一致していました。一方、山本氏の笑顔は、「謝罪」という場において「深刻さの欠如」を見せてしまう行為となり、場の期待と真っ向から食い違いました。
見た目や表情は、それ単体で良し悪しが決まるものではありません。「その場で何を見せることが期待されているか」を外すと、どんなに自然な振る舞いでも強い反発を招く——これが、今回の2つの出来事から見えてくる「見た目の科学」の教訓です。
謝罪や説明の場に立つ機会は、政治家や芸能人に限った話ではありません。仕事上のミスの報告、取引先への謝罪など、私たちの日常にも同じ構造の場面は数多くあります。「今、この場が自分にどんな表情を期待しているか」を一度立ち止まって考えることが、無用な誤解を防ぐ第一歩になるはずです。
本記事は、東洋経済オンラインの以下2記事をもとに、独自の視点で再編集したものです。