老いへの向き合い方ひとつで、寿命が平均7.5年変わるとしたら——にわかには信じがたいが、26年間にわたる追跡調査で示された数字である(※1)。禁煙による寿命延長が2〜3年とされる中で、この数字は際立って大きい。
俳優の飯島直子(58歳)への評価が、ここ数年で静かに、しかし確実に変わってきている。かつて「男性人気の象徴」だった飯島が、いま女性から熱い支持を集めているのだ。2026年7月、水のボトルの蓋が開けられなかったというエピソードとともに、加工なしの”すっぴん”ショットをInstagramに投稿すると、《すっぴんと言いながら薄化粧している人が多い中、恐らく真のすっぴんでいる飯島直子さんは潔い》といった称賛の声が広がった。
だがこの現象、単に「素顔がきれいな芸能人」という話では片づけられない。飯島がこれまで歩んできた道のりを振り返ると、もっと複雑で面白い構造が見えてくる。
同じ「老いを見せる」でも、道筋がまったく違う3人
同じように”ありのままの姿”を見せて称賛を集めた女性は、飯島の他にもいる。だが、その称賛に至る道筋は、実は3人3様だ。
**天海祐希(58歳)**は、宝塚男役から「強く格好いい女性」役を演じ続けてきた、芸歴約40年の大女優だ。2026年4月、NHK「あさイチ」で白髪を隠さず「老化と呼ばず、進化と呼んでいる」と語り、称賛を集めた。だがこれは、もともと「憧れの的」だった人物が老いすら格好よく見せる、いわば予定調和の中の意外性である。
**田中みな実(39歳)**は、アナウンサー時代「あざとい」と嫌われ、女子アナランキングの上位に名を連ねていた。フリー転身後、美容への並外れた努力や恋愛の失敗談を包み隠さず語る姿を見せ続けたことで、「あざとい」は「誰よりも頑張っている」へと評価を反転させた。最初は嫌われていたが、努力を見せて仲間だと認められた逆転劇である。
そして飯島直子は、このどちらとも違う。レースクイーンやセミヌード写真集を経て「癒し系女優」として”男性ウケ”を軸に人気を獲得してきた飯島は、天海のように最初から女性の憧れの的だったわけでも、田中のように明確に嫌われていたわけでもない。女性たちにとって、長らく「関心の外側」にある存在だった。
なぜ、”男性ウケ”の象徴だった人が、女性から支持されたのか
飯島に起きている現象を読み解く鍵は、心理学の「社会的比較理論」にある。人は自分と似た属性を持つ相手、とりわけ同性との比較によって自己評価を形成しており(※2)、自分に近い存在が優れた成果を上げているほど、比較によって自尊心が脅かされやすいことも知られている(※3)。魅力的な同性は、単なる「きれいな人」ではなく、無意識のうちに自分の評価を脅かす存在として処理されてしまうのだ。
近寄りがたい美人というより”癒し系”の身近な美人として男性人気を築いてきた飯島は、実はカチッとした美人女優以上に、女性にとって「比較対象」になりやすい立場だった。そんな彼女が、老眼や白髪、握力の低下といった”隠したくなるはずの弱さ”を、あえて隠さず見せるようになった。
このとき起きているのは、単純な好感度アップではない。「もう、この人と自分を比べる必要はない」と感じた瞬間、相手は”脅威”のカテゴリーから外れ、”同じ立場の仲間”へと変わる。冠番組で内田有紀(50歳)とのサシ飲み中、内田が老眼鏡をかけた瞬間に「有紀ちゃんが老眼鏡だよ!」と驚く飯島の姿は、まさにこの「対等な関係性」が成立していることを示している。天海のような「予定調和の意外性」でも、田中のような「努力による逆転」でもない、”脅威解除”という第三の道筋がそこにはある。
老いのサインは、”信頼”のシグナルでもある
さらに興味深いのは、加齢そのものが必ずしも「信頼を失わせる」方向に働くわけではないという点だ。顔の成熟度(幼さの逆)が高いほど、有能さや信頼性の評価が高まる傾向があることが示されている(※4)。しわや白髪といった加齢のサインは、見方によっては「成熟のシグナル」として、むしろ信頼性の評価を押し上げうる。
人の温かさ・親しみやすさの印象は、地位や実績ではなく、表情そのものから強く伝わることも知られている(※5)。目元にしわが寄るような心からの笑顔は、年齢に関係なく「感じがいい人」という印象を与える。目尻のしわは、まさにその笑顔が長年積み重ねられてきた証しでもあるのだ。
老いや衰えをあえて見せることは、多くの人にとって勇気がいる。だが、その振る舞いが、思いがけず周囲の警戒心を解き、より深い信頼や親近感を生むことがある。そして冒頭の数字が示す通り、老いへの向き合い方は、周囲からの好感度だけでなく、自分自身の心と体にも、静かによい影響をおよぼしているのかもしれない。
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《見た目の科学ブログ》
《東洋経済オンライン》
引用文献
※1 Levy, B. R., M. D. Slade, S. R. Kunkel & S. V. Kasl (2002) Longevity increased by positive self-perceptions of aging, Journal of Personality and Social Psychology, 83(2), 261-270.
※2 Festinger, L. (1954) A theory of social comparison processes, Human Relations, 7(2), 117-140.
※3 Tesser, A. (1988) Toward a self-evaluation maintenance model of social behavior, Advances in Experimental Social Psychology, 21, 181-227.
※4 Zebrowitz, L. A. & J. M. Montepare (2008) Social psychological face perception: Why appearance matters, Social and Personality Psychology Compass, 2(3), 1497-1517.
※5 Otta, E., F. F. Abrosio & R. L. Hoshino (1996) Reading a smiling face: Messages conveyed by various forms of smiling, Perceptual and Motor Skills, 82(3), 1111-1121.