正直に告白すると、今回の東洋経済の記事は、調べながら自分自身が一番驚いた記事だった。
8月23日、りくりゅうペアの婚約発表を見たとき、最初に浮かんだのは「おめでたいニュースだ」という率直な感想だった。ところが1日、2日と過ぎた頃から、X上の空気が変わり始めた。「気持ち悪い」「嘘つき」「騙された」——そこに2400万表示を超える投稿まで出てくる荒れ具合に、正直、面食らった。
「なぜ祝福ムードが一転して炎上したのか」という記事のテーマが浮かび、その要因を究明すべく、いつもと同様にヤフーコメント欄も、丹念に調べてみて驚いたのだ。
4000件のヤフコメを読んで、数字が合わないことに気づいた
正直、最初は「Xの炎上を裏付ける声がもっと見つかるだろう」くらいの気持ちだった。ところが、蓋を開けてみると様子がまるで違った。
Yahoo!のAIによる分類では、「競技優先に理解」「詮索姿勢に疑問」「公表判断を支持」「中傷環境に懸念」——実はこの4分類、すべて2人に理解を示す側の意見だった。批判する側の意見は、目立った分類としてすら現れていなかったのだ。
共感数の多いコメントを実際に読んでみても、《「ご想像にお任せします」の意味が人によってこんなにも真逆になるのだと感じました》《騙されたってのがよくわからない》というように、むしろ「Xで批判している人たち」への違和感を綴るコメントのほうが目立っていた。
同じ日、同じ2人の話をしているのに、片方では「批判優勢」、もう片方では「祝福優勢」。この数字のズレを最初に確認したとき、正直、自分の集計が間違っているのではないかと二度見してしまった。
「世論」という言葉を、私はこれまで軽く使いすぎていたかもしれない
この発見が面白かったのは、単に「Xは怖い」「ヤフコメは優しい」という話にとどまらない点だ。
私たちは「炎上している」「世論が反転した」という表現を、まるで日本中の総意が一つに定まったかのように使ってしまう。しかし今回はっきりしたのは、「世論」というものが、実は最初から1つではなく、見ている”窓”(プラットフォーム)によってまったく違う顔を見せる、ということだった。
この記事を書くまで、私自身、東洋経済の記事のネタ探しでXばかりを頼りにしていた自覚がある。Yahoo!リアルタイム検索や週次のサーベイでも、主戦場はXだった。だが、ヤフコメという”もう一つの窓”を覗きに行かなければ、今回の「本当の世論が割れている要因が何なのか」ということを解明することはできなかった。
私自身、Xとヤフコメで、ここまで「世論」が異なるとは思ってもみなかったのである。
似たような「ズレ」は、実はこの連載でも繰り返し起きている
振り返ってみると、この「見る場所によって評価が反転する」という構造は、実は今回が初めてではない。
高市首相の記事では、国会での険しい表情とジュエリー授賞式での笑顔という、”2つの顔”のあいだのギャップそのものが不信感の引き金になっていた。大谷翔平選手の記事でも、年子論争と鬼の形相という2つの出来事について、限られた情報から見る人それぞれが勝手な物語を組み立てていた。
今回のりくりゅうの一件は、これらとは少し違う。人物の表情や振る舞いではなく、「どのプラットフォームを見ているか」という、私たち自身の立ち位置そのものが評価を決めていた、という点で、これまでの記事群の一歩先を行く発見だったように思う。
書き手として、これからも意識したいこと
今回の一件は、自分の職業病のようなものにも気づかせてくれた。私たちは「見た目の科学」という枠組みで、人の表情や振る舞いがどう評価されるかを分析することが多い。しかし、その評価を下している「私たち観察者側」の視点自体が、実はSNSのメディアごとに偏った窓となっている可能性がある、ということを、今回ほど強く実感したことはなかった。
次に「炎上している」というニュースに出会ったとき、私はまずいくつかの別の窓を覗きに行くことにしたい。今回のように、まったく違う景色が広がっているかもしれないからだ。
関連記事
《見た目の科学ブログ》
《東洋経済オンライン》
引用文献
※1 Broadbent, D. E. (1958) Perception and Communication, Pergamon Press.
※2 Treisman, A. M. (1964) Verbal cues, language, and meaning in selective attention, American Journal of Psychology, 77(2), 206-219.
※3 Goffman, E. (1959) The Presentation of Self in Everyday Life, Doubleday.
※4 Jones, E. E. (1964) Ingratiation: A Social Psychological Analysis, Appleton-Century-Crofts.
※5 Brady, W. J., J. A. Wills, J. T. Jost, J. A. Tucker & J. J. Van Bavel (2017) Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks, Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(28), 7313-7318.
※6 Thorndike, E. L. (1920) A constant error in psychological ratings, Journal of Applied Psychology, 4(1), 25-29.