イプサ ザ・タイムRアクア。ひと目で女性の心を、わしづかみ! そのヒットの法則とは?
皆さん。このパッケージ、どう思いますか?
すでにご存知の方も多いかもしれませんが、2014年5月にイプサから発売された、ザ・タイムRアクアです。容量は200ml、価格は4,400円の化粧水です。
日本で最大の化粧品の口コミ・サイト、アットコスメで、口コミ評価No.1となっている大ヒット商品です。SNSでもいまだに数多くアップされていて、口コミで話題の商品となっています。
商品のキャッチ・コピーには、「私は、アクアフルネス。THE TIME RESET AQUA、いつも満たされている肌には、トラブルがつけいるスキがない」とあります。
この商品のスキンケア効果に関する口コミはもちろん多数見られる一方で、パッケージに関するものとしては、次のようなものが挙げられています。
「(デザインは)唯一無二であり、一度気になったら忘れられない形ですよね。手に取ってみると、少し柔らかくて冷たさの少ない、プラスチック系の素材に感じます。落としても割れにくそう。」
イキイキとした水の躍動感や生命力のイメージを象徴したようなデザインが、見た目にも印象深く、ブランドの観念価値やみずみずしさを感じさせることによる感覚価値づくりにつながっているといえます。
この成功要因は、まさにゼロ・プロモーション・マーケティングの原理ともいえる、インサイト&アウトサイト思考が一貫して成立しているといえます。
イメージ・モチーフは「水の生命体」
まず注目したいのが、いきいきした水のかたまり、いわば「水の生命体」とでも表現したくなるようなイメージ・モチーフです。これは「商品コンセプトを象徴的なビジュアルで表現する具体的なテーマであり、商品の作り手が設定し、パッケージ全体の外観デザインと、商品属性情報(表示)に反映するもの」と定義される概念です。
魅力的でヒットする化粧品パッケージの多くは、外観デザインに加え商品名称、キャッチ・コピー、説明書(能書)情報などのパッケージに関連する構成要素がすべて、このイメージ・モチーフと連想でつながり、一体となって表現・表示されています。それらの要素を使って、消費者心理を最大限に刺激し「斬新さ」とともに「興味・関心」を掻き立てると同時に、「商品コンセプト」を強力に印象づけ記憶に残るものに仕立て上げられているのです。
イメージ・モチーフが潜在意識に働く仕掛け
イメージ・モチーフは商品コンセプトをビジュアルに表現する「例え」となるもので、商品名、パッケージなどのデザイン、配合成分や効果などの中味設計とも連想でつながる形をとっています。
私たちの脳内では意味ネットワークという、記憶のネットワークが形成されていると考えられています。言葉と言葉が連想で次々と網の目のようにつながって、ネットワークが作られているのです。
イメージ・モチーフはこの意味ネットワークに物理作用にも似た仕掛けを施すものといえます。
下の図はイプサ ザ・タイムRアクアを例にした、イメージ・モチーフの意味ネットワークに対する仕掛けを表したものです。
左にはイメージ・モチーフである「水の生命体」の意味ネットワーク、右は商品カテゴリーである「化粧水」の意味ネットワークです。「水の生命体」の意味ネットワークには「透明・反射」「躍動」「変形」などが連想でつながっています。一方の「化粧水」の意味ネットワークには「ボトル入り」「円筒形」「保湿効果」などが連想でつながっています。
イプサ ザ・タイムRアクアが発売される前は、これら2つの意味ネットワークは別のものとして離れた存在でした。化粧水も水のように液体ではありますが、その形状は円筒形のものがほとんどで、左右対称のシンメトリックな形をしているものとして記憶されています。本来は形のない水を、躍動感のある生命体のように表現したデザインは、化粧水のボトルとしては、それまで誰も見たことがないものであり、この商品のパッケージを見て、はじめてその概念に気付かされるということがいえるでしょう。
ザ・タイムRアクアはこれらの本来離れて別々に存在していた2つの意味ネットワークを、パッケージによって、強制的に連想でつなげる働きをしているといえます。
このことによって、店頭などで初めてこのパッケージを見た消費者は、本来は結びつかなかった2つの概念「水の生命体(いきいきした水のかたまり)」の形をした「化粧水」の存在に対して、無意識のうちに戸惑い、違和感や疑問が沸いてきます。そして、それを解消したくなって思わず手にとって商品説明を読んだり、試用見本を試してみたりするのです。
そして「肌の水と一体化する化粧水」「水の躍動感や一体感を表現したデザイン」「名前のアクアは、それを表しているんだ」というように、何度も「水の生命体」と「化粧水」の関係性を繰り返し確認していくうちに納得し、しっかりと記憶にも刻まれる、というワケです。
このプロセスを経ることによって、消費者の心には「この化粧水はどんな香りや感触なんだろう」といった興味がわいて「試してみたい」という試用意向が高まったり、「この商品のことを誰かに話したい」といった口コミ意向が高まることが実証されています。
イメージ・モチーフによる意味ネットワークへの仕掛けが、消費者心理を刺激し情報検索や購買、口コミなどの行動に駆り立てるのです。
インサイト・アウトサイト思考
イメージ・モチーフの設定方法について簡単に紹介すると、次の3つの考え方(ステップ)を踏まえることによって、魅力が高まりヒットの可能性が大きくなるといえます。
- 「まだ誰も気づいていない潜在ニーズ」であるインサイトを消費者の潜在意識の中から発掘する。
- このインサイトに応える商品コンセプトをつくる
- この商品コンセプトを象徴的に表現するイメージ・モチーフを考案し、商品名やパッケージ・デザインなどに反映させることによって、「潜在意識に働きかけ、ひと目で心をくぎ付けにし、思わず手にとって表示を読み、試してみたい・誰かに話したいと思わせる見た目」といえるアウトサイトを作り上げる
この考え方はインサイト・アウトサイト思考といい、下の図はイプサ ザ・タイムRアクアの例を示したものです。
擬人化の深層心理
魅力的な化粧品のパッケージを作る上で、もう一点紹介したいのが擬人化の深層心理です。私たちはモノを見るときに無意識で人や動物に例えて見ていることが少なくないといえます。例えば自動車のヘッドライトは“目”で、その下にある冷却のために空気を取り込むエア・インテークの穴は“口”、4つのタイヤは“足”として捉えられています。
化粧水のボトルは、キャップが人の頭(顔)で容器本体は身体、と見立てられることが多いことが実証されているます。特に、化粧品に対して消費者は「自分を美しく装うための信頼のパートナー」といった期待を深層心理で抱いており、コミュニケーションの対象として擬人化しているという研究もあります。
私たちは初対面の人に対して、その人柄や性格などを知ろうと、顔を中心に表情やしぐさ身なりなどを注意深く見て判断しようとするものです。初めて見た化粧品に対しても、同じようにボトルなどの1次パッケージを人に見立てて、注意深く観察していると考えられます。前述のイメージ・モチーフやインサイト・アウトサイト思考は、この消費者の心理や習性に応える形で魅力的なパッケージ・デザインを仕立てる手法といえるのです。
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